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■ 定有堂雑記
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第１３回 一語の辞典「愛」
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昔からの柳父章さんの読者なので、この「一語の辞典 愛」はとてもうれしい本でした。スケルトンな「認識装置」が静かに稼動している様を見るような、心地よさが味わえるのです。
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レッスンの課題は「愛」。小気味よく感じるのは、テーマをろ過していく柳父章という装置のしなやかさです。
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近頃、「人はなぜストーカーになるのか」という本や、少し前にはモラヴィアの「倦怠」を読んだことを思い出します。一口に言えば、これは「愛」が内面を追いつめていく過程が主題だったのだと思います。
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メタ・レベルで考えれば、「なぜ人は愛に期待するのだろう？」と問うこともできます。
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柳父さんの思考がクールなのは、心理的な観念で武装しないからでしょう。
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人は言葉で考える。だから言葉のワナに簡単にからめとられる。認識とはだからこの言葉の網から上位概念へと抜け出すことであるはずです。これが柳父章という「方法」であり「装置」なのだと思います。
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心理的な理解は、どうしても葛藤を抱え込みます。いずれどちらかに組してしまうものです。柳父章という装置は、「構造」として、認識のソースとしてすべてを受け入れます。
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「愛」は歴史的一回性の始原をもつ。あらわれの大きな結節点は、トルバドゥール（吟遊詩人）の出現。遡及すれば、カタリ派、古代ギリシャ。精神のヒエラルキー。相克と上昇。つづめて言えば、「苦悩をとおして認識」するということによって「遥かなもの」に至るという絶対的な観念。
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言葉は人に光をもたらす。同時に「言葉故の闇」というものもある。
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「愛」がなぜ人を追いつめるか？「愛」というものは、本当は「愛」という言葉だけがあるのです。だから、人は「愛」という「思い悩み」に出会い、この「愛」に期待し、その「言葉」にふさわしい意味を現実の中に探し求める。でも、この「意味」は腐蝕する。「在る現実」を名付けたのでなく、名付けられた「言葉」が先にあるにすぎないからなのです。
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そんなレッスンをこの本から受け取りました。
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むろんこの書は「語」を切り口とした思想叢書なので、もっと緻密な論の構築も持っています。柳父さんの概念装置の一つに「カセット効果」という重要な用語があります。
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ある時期、背伸びしてみることが文化には必要だということでしょうか。「翻訳語」は背景に舶来の新思想を背負っていて、内容は容易に理解できないが、人を惹きつけます。このきらめきを宝石みたいだね、というので「カセット効果」というのです。
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言葉に始まった「問い」を、言葉で開け放つ。柳父章さんという認識装置が、一条の光を差し入れ、「愛」をめぐるナゾを解き放ってくれる現場に引き込まれるはずです。
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