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■ 定有堂雑記
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第２０回 啓三さんへ―アクチュアリティ
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先日、古賀啓三さんのコラムで、わたしの認識のキーワードの「リアリティ」と「アクチュアリティ」について、「この二語間に余り距離があるとは思えない」と指摘がありました。以前、東京は新宿で会話したときも同様の議論がありましたですね。
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対義語として考えるなら、「これはやっぱりfake：realだろう」とおしゃってます。英語圏に暮らす啓三さんの方が語感としてむろん正しいはずです。もう少し、この話題にこだわってみますね。
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まず、この言葉との出会いは、定有堂教室「読む会」のテキストの中ででした。精神医学者の木村敏氏の「偶然性の精神病理」（岩波現代文庫）です。
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離人症について、「人格」としての実体感が感じられなくなる、患者が世界に対する行為的な関与の遂行感を失った結果として現実感が希薄になる、などと説明してあります。
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「つまり離人症の場合、リアリティは保たれているのに、アクチュアリティはすっかり失われてしまう。」
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離人症の人は、まず変な感じがする。それは、なにかしら間が悪い。つまりタイミングが悪い。「タイミングとは、わたしが行為的に世界に関与するときにのみ、世界との接点に発生する現象である。」タイミングが世界との「界面現象」であるということでもあります。
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ここからは私の解釈ですが、離人症の人は、なんとなく話してて変な感じがする。それは話の内容が変というのではない。ただ、タイミングが変なのでしょう。つまりリアリティがそこなわれてるのでなく、アクチュアリティが損なわれてるような感じを受ける。病んでる感じは「界面現象」に露出する。
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私は本屋なので、この「界面現象」を市場性という面で考えます。いい本なのに売れない。こんな場面に、界面現象があります。
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本が好きな私は、リアリティの球体に長く閉じ込められます。あるときこの球体が外部（アクチュアリティ）と出会うとき砕けます。読者の所与はリアリティの方向にあります。本屋の所与はアクチュアリティの方向から始まります。
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こういう場面に、リアリティとアクチュアリティという言葉を置いてみると、おもしろい界面が生じますよね。
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本屋は、一目見て売れる本かそうでないかがわかります。それはきっと精神医が一目見て離人症に気付くのと同じようなことだと思います。精神医が界面現象に敏感であるように、本屋は市場性に敏感だからです。きっと売れない本には、タイミングの悪さを感じ取るのでしょう。
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啓三さん、こんなことを考えながら、本屋の仕事を続けています。
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