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■ 黄色い部屋の片隅で（ミステリ・アーカイヴ）
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第二回
『虚無への供物』原典版について
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この２月２９日は、塔晶夫の『虚無への供物』が刊行されて４０年目に当たる。昭和３７年の乱歩賞に前半を投ずるも次席、翌年後半を書き上げ、３９年の２月に出版の運びとなる。
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年譜には、３０年１月、突然全編の構想浮かぶも、執筆は手につかず、とあるが、これが事実でないことは、かなり以前から、種々の文献で言及されており、著者自身も晩年にその事実を（かなり韜晦気味に）告白している。今般の記念展覧会には、その証拠となる掲載誌が出陳されたそうだし、助手として最期を看取った本多正一氏が、同書の成立過程検証に着手されるとも仄聞している。氷沼家の「辛子いろのカーテン」が、再びそよぎ始めたようだ。
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昭和３０年、雑誌「アドニス」の第２１号に、記念すべき「虚無への供物」第１回が掲載された。序章の１～５、約３７枚であり、著者名義は碧川潭（みどりかわ・ふかし）であった。碧川（緑川）姓は、中井英夫が好んで使った筆名である。
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以下、２２号に、
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第２回 序章６～１０、第１章１１～１２ 約４７枚
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２３号は、破格の別冊付録として、
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第３回 第１章１３～１９ 約７９枚が、
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２号飛んで、２６号に同じく別冊で
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第４回 第１章２０、第２章２１～２３ 約４０枚
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が掲載された。都合２００枚弱、定本の６分の１に当たる。
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翌年以降、執筆されなかったのは、「短歌」編集長への就任があるものの、多忙が理由とは見なし難い。何となれば、この時期、「アドニス」の文芸別冊ともいうべき「アポロ」に、
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Ⅱ号（３０年） 「とらんぷ譚」 約４５枚
Ⅲ号（３２年） 「おりんぴあど譚」 約１１７枚
Ⅴ号（３５年） 「青蛾の嘆き」 約５２枚
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を発表しているからで、本人も、あるインタビューで、何か（別の仕事）をしている方が執筆が捗ると語っている。現実の進行に呆気に取られ完成できず云々も、如何にも中井らしい言い訳で、要するに、行き詰まったと見るべきだろう。（「虚無なる日々に―未公開日記抄」の１９５７年の項参照）
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「アドニス」は、昭和２７年の創刊で、３７年まで続いた会員誌。中井の分身Ｂ（田中貞夫）が、同誌の編集に関わることになったことから、掲載が始まったものと思われる。別冊として、会員の手記集「メモワール」と文芸集「アポロ」とがある。後者の 号には、三島由紀夫が榊山保名義で「愛の処刑」を書いたことでも有名。
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それにしても、雑誌終刊の年に、「虚無」が公けの場に姿を現すことといい、同書の成立は何と小説以上に暗合めいていることか。
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