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■ 黄色い部屋の片隅で（ミステリ・アーカイヴ）
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第１８回
少年と犬
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というと、直ちに思い浮かぶのはハーラン・エリスンの『世界の中心で愛を叫んだけもの』に収められた同題の小説。こっちはＳＦだけど、さりげないようで結構本質を突いたタイトルですね。（映画は一寸グロだったが）このテーマは一編の論文になる位の深みがあると思うのだが、まあそれは余分な話。今回は干支ネタです。
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戌年の方、年男・年女おめでとうございます。めでたくなんかないわよ、という方も、めでたさが中位の方も、明けましておめでとうございます。
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さて、「名犬ラッシー」「名犬リンチンチン」「五人と一ぴき」「わんぱく天使」「刑事犬カール」なぞというＴＶドラマに、かつては胸躍らせたものだが、児童向けのミステリにも、犬が重要な役所の、つまり〈少年と犬〉テーマの作品は少なくない。
エニード・ブライトンの「五人と一匹」シリーズ、ベバリー・クリアリーの「ヘンリーくん」シリーズ、エルジュの「タンタンの冒険」シリーズ、そしてエラリイ・クイーンＪｒ．の「ジュナとチャンプ」シリーズ。
今回は、「ジュナとチャンプ」をお題に選ばせて頂く。
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シリーズは全部で８冊。
① 黒い犬の秘密 西脇順三郎訳
② 金色の鷲の秘密 内村直也訳
③ 緑色の亀の秘密 福田恆存訳
④ 赤いリスの秘密 中村能三訳
⑤ 茶色い狐の秘密 福原麟太郎訳
⑥ 白い象の秘密 石井桃子訳
⑦ 黄色い猫の秘密 村岡花子訳
⑧ 青いにしんの秘密 大久保康雄訳
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この訳者は、昭和３３年の初刊時の面々で、５３年の文庫化の際には③だけ変更になっているが、翻訳界・児童文学界の錚々たる名前が並んでいるのに息を呑む。早川書房としても初の児童文学進出で、かなり力を入れたものと想像される。
体裁は、各巻タイトルに合わせた色違いの箱入り（機械折）。箱絵は、ポケミスでお馴染みのアブストラクトで、子供の購買欲にアピールするのかどうか、些か疑問を感じないではないが、本文にはカラー口絵と挿絵入り。巻頭に訳者による慇懃な紹介文と、巻末に全巻都筑道夫による懇切な解説が付く。
箱に刷られた紹介文が、作品の性格を良く表しているので、少々長くなるが全文を以下に引用させて頂く。
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このシリーズは、アメリカの世界的な探偵小説作家エラリイ・ クイーンが、とくに少年少女のために書きおろした本格的なジュ ニアむき探偵小説シリーズです。ジュナという十二才の少年とチ ャンプという黒いスコッチテリアを主人公として、アメリカの海 に山に展開される物語は、楽しく、明朗で、知的です。情操と知 性とをスポイルせず、育ちゆく少年少女の抱く冒険心と好奇心を 満足させる、これは健全な読物です。あなたが先にお読みになっ て、お子様にぜひおすすめください。
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保護者向けの文章だが、如何にも漫画や探偵小説が低俗でいかがわしい読物として、悪書追放の対象となっていた時代の出版物であることを物語っている。それ故にこその訳者陣でもあったろう。
しかし、この惹句に偽りはなく、古き佳きアメリカの田舎町を舞台に、のびのびとした少年と愛犬の暮らしが描かれて入る。原著は戦時中から、繁栄の５０年代にかけて発表。幽霊屋敷あり、銀行強盗あり、航海船の宝あり、馬車旅行あり、サーカスあり、正に少年の夢を詰め込んだクイーン版トム・ソーヤーである。
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外国の小説で、しかも地味な装丁が災いしたのか、このシリーズは余り売れなかったらしく、重版された形跡もない。復活するのは、２０年後、同社が《ハヤカワ文庫Ｊｒ》というレーベルを立ち上げるに当たって、８冊をまとめて（配本は３回に分けて）復刊・投入した時のことである。
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この時は、カバー、口絵、挿絵を現代風に改めて面目を一新、シリーズ名も《ジュナの冒険》となった。（ちなみに初刊時は、シリーズ名はなく、単に《ジュニア・ミステリ》と謳ってあるだけである）しかし、こちらも後続作品に恵まれず、スパイダーマンや超人ハルクなど、映画のノベライズで茶を濁した挙句、レーベル自体が消滅してしまった。作品自体は優れたものなので、何とも残念なことである。
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